
「名もなき英雄譚」
絵・キャラデザ:皇黄リリエ
物語歌枠『魔王と世界樹』
勇者とその一行よ……
よくぞここまで来た……
ここは魔王城……
我こそが魔王。
さぁ、闇と光が混じり合い、血沸き肉躍る戦いを、今、始めようじゃないか!
……なんてね。冗談。
こんにちは。僕は風街ピリカ。
よければ、その手に持っている武器とかを収めてくれると嬉しい。
勇者一行パーティーの皆、来てくれてありがとう。
武器っていうか……なんか、色んな格好をした人がいるね……
ピエロの人とか、赤いこう、丸い鼻なんてつけて、ご機嫌な格好してて素敵だね。
そっちの人は……何それ、酒?お酒持ってきたの?魔王城に?
なんで?魔王を酔わせようとした?
あ~~~……後で、皆で一杯やろっか。打ち上げみたいな感じで。
……さて、ここは空想図書館。
僕が空想した物語が、本となって保管されている場所。
VFantasy歌枠リレー、最後の枠は「魔王」。
じゃあ魔王はどこにいるのかって?
それはね……
この本の中なんだ。
先日、この図書館に突然、謎の本が現れたんだ。
タイトルは『魔王と世界樹』。
本の中身を読んでみても、覚えがない。
今日は皆に、この本を一緒に読んでほしいんだ。
理由は今は詳しくは言えない。というより、言わない方がいいんだけど……その辺りの事情は、後ほど、物語が進んでからお話するよ。
とにかく、一緒に読んでもらう必要があるんだ。
で、この『魔王と世界樹』、ちょっと特殊な形式の本なんだ。
「ゲームブック」……と言えば、分かる人もいるだろうか?
選択肢がたくさん出てきて、その選択次第で物語が分岐していく、あれだ。
今回、その物語内の選択肢を、皆に選んでほしい。
選択肢が出たら、僕はぴったり30秒待つ。
好きな方の選択肢を、コメントで「①」もしくは「➁」と打ってほしい。
その選択をした先がどうなるのか”想像”をしながら。
大体の数を見て、多数派の方を採用するよ。
ちょっと練習してみようか。
例えば……
皆、「勇者」と「魔王」、どっちが好き?
①勇者が好き
➁魔王が好き
ありがとう。
➁の魔王派を選んだあなた、空気を読む能力に長けていますね。
ここ魔王の枠だから、①選んだら何されるかわかんないもんね。
①の勇者派を選んだあなたもね、大丈夫。概要欄のところにね、なんと前枠、「勇者」の御伽ミアのアーカイブがあるから、それをぜひ見てほしい。
あ~今行くのはちょっと待ってね。
うん、勇者だー!やったー!って気持ちは分かるけど、よければちょっと見ててほしい。
さて、それでは前置きはこれくらいにして、物語を読んでいこうか。
魔王の物語を、ぜひ、最後までお付き合いあれ。
『魔王と世界樹』……
あなたはこうして、『魔王と世界樹』の読み聞かせを聞くことになった。
物語は「勇者」と「魔法使い」が世界を救う旅をしている所から始まる。
登場人物は二人。
理想主義者の「勇者」。
優しく情に溢れ、行動力に満ちている。
特技は”対話”
あらゆる動植物と心を通わせ、話をすることができた。
現実主義者の「魔法使い」。
冷静で不愛想に見えるが、意外と面倒見が良い。
特技は”魔法”。
特に、任意の時に”セーブ”と”ロード”ができる、”記録魔法”を愛用していた。
二人は世界で最も優秀と言える頭脳を持ち、戦闘技術にも長けていた。
正反対の性格の二人だが、「世界を平和に導きたい」という想いは一致しており、共に旅をしていたのだ。
二人が旅する世界は、一つの大きな大陸だった。
片方には”人間”、もう片方には”魔族”が暮らしていた。
最も、そのように偏って生活していたというだけで、国境のような明確なものは無かった。
そして、大陸の中心には「世界樹」。
世界樹は、天辺が空に霞んで見えないほどの、とてつもなく高く大きな木だ。
そのあまりにも巨大な体を、どのようなエネルギーで保っているのかは謎に包まれている。
例えば土中の養分や、その他生物由来の成分を代謝していると考えると、明らかに計算が合わない。
よって、何か未知のエネルギーを糧にして育っているとする説が有力だ。
その見た目の神秘性から、世界樹は人間と魔族の信仰の対象となっていた。
いわば「神」のような存在だ。
「世界樹が世界の恵みを保ってくれている」「世界樹が枯れるとき世界も枯れる」といった昔からの言い伝えを信じ、信者たちは熱心に祈りを捧げる。
人間は世界樹を人間のものだと思っており、それは魔族も同じ。
よってこの世界樹こそが、人間と魔族の争いの種になっていたのだ。
このような世界を、勇者と魔法使いが旅する物語を、あなたは聞いていた。
例えば、こんな一幕……
#勇者
……ね、あそこ。見える?
勇者が小さな声で魔法使いに語りかける。
#魔法使い
……ここから見える範囲で12人、か……
この人数なら、危険はないか……?
いやしかし、死角にまだ潜んでいたら……あるいは武器を隠し持っていたら……
その視線の先には魔族が複数。二人には気付いていない。
いくつか家のような構造物が見え、彼らはここに集落を作っていると分かる。
#勇者
ね、どうしようか?
とりあえず出ていって、話しかけてみない?
#魔法使い
いや、まず拘束魔法で動けなくしよう。
#勇者
え、こわ……魔王……?
「魔王」というのは、勇者が創り出した魔法使いのあだ名だ。
魔法で全ての頂点に君臨する「王」の風格……を表しているらしい。
実際にはそのような存在はこの世界にはいない。
いたら、もっと秩序立った世界になっていただろう。
#勇者
だめだよ!彼らびっくりしちゃうよ!?
僕らは平和を実現するために、彼らを説得して回ってるんだから!
#魔法使い
それはもちろん分かっている。
だが相手がこの人数・配置だと、安全にいくとは言い切れない。
私達が道半ばでやられるわけにはいかないだろう?
#勇者
む~~……僕ら強いし、いざ戦うとなっても大丈夫だと思うけどなぁ……
#魔法使い
私の拘束魔法は相手を傷付けることはない。
最初は驚くだろうが、その後穏やかに話して説得すれば大丈夫だ。
これまでも何度かやってきただろう?
#勇者
まぁそれは……そうだけどねぇ……
後で恨みを買わないかな……大丈夫かな……
#魔法使い
そこはお前の説得次第だ。信頼してるぞ。
#勇者
都合のいいこと言うなぁ……
意見が分かれたが、最終的に今回は魔法使いが意思決定することになった。
魔法使いは考えた結果……
▶①まず話しかける
➁まず拘束魔法
#魔法使い
よし、今回はまず話しかけよう。
#勇者
あ、いいの?
#魔法使い
私達は説得した後のことも考えないといけないからな。
お前の情に溢れた優しい案が、「その後」に活きると思ったんだ。
#勇者
そっか……よかったぁ、安心したよ。
まぁ、君の案でもなんだかんだ上手くいったと思うけどね。
#魔法使い
ふっ……そうか。
#勇者
よし、じゃあ早速行こうか!
#魔法使い
いや待て。先に記録魔法を使って「セーブ」しておく。
#勇者
も~慎重だなぁ。3日前にやったじゃん、大丈夫だよ!
#魔法使い
だめだ。3日前だぞ?もしここで何かあって私が「ロード」したら、また同じ3日を繰り返さなきゃならない。
私はごめんだぞ。
#勇者
それが必要なことなんてそうそうないと思うけどなぁ……
まぁいいよ。待ってあげる。
#
魔法使いは呪文を唱え、杖を指定の型通りに動かした。
手元に光に包まれた本が現れ、開かれる。
中に次々と文字が書き込まれていく。
これは、魔法使いがこれまでに歩んできた「旅の記録」だ。
やがて書き込みが終わると、最後に本の表紙には魔法陣のような模様が書き込まれ、本は消えた。
#魔法使い
……よし、いいぞ。
#勇者
おっけー。まぁ会話は僕に任せてよ。
どんな相手とでも心を通わせて、穏便に「対話」してみせるからさ。
任せてくれたまえ。
#魔法使い
あぁ、頼んだぞ。
こうして二人は魔族に話しかけることにした。
まず勇者が出て、できるだけ穏やかに、端的に、自分が敵ではないことを説明した。
魔族は最初は戸惑っている様子だったが、次第に警戒を解き、二人の話に耳を傾けだした。
#勇者
……でね!世界を大きな二つのまとまりに分けるんだ!
分けると言っても、お互いがお互いの場所を行き来してもいい。
好きな時に、好きな場所に行けて、それぞれの美味しい食べ物なんかも分け合えるし……
#魔法使い
その二つのまとまりを、私達がリーダーとなって導こうと考えている。
もちろん、あなた達が暮らしやすいように上手くやってみせよう。
例えば、皆の意見を受け取る仕組みとして……
いつも通り、勇者が理想を語り、魔法使いが現実でそれを固める。
片方だけでは危うく、もう片方だけでは広がりが無い。
だが二人の話が合わさると、それはそれは魅力的な絵が浮かぶわけで。
魔族もみるみるうちに、惹きこまれていった。
その夜、二人は焚火の前で話をしていた。
#勇者
……そしたらさ、世界を分けた二つの大きなまとまりを、「国」って呼ぶことにしよう!
で、世界樹が争いの原因になっちゃってるから、それを……あ、そうだ!
ねぇ、君はどっちの「国」の王になりたい?
#魔法使い
それはつまり……私が「人間」と「魔族」どちらの王になりたいかということか?
#勇者
そう!さっすが理解が早い!
で、どっち?
#魔法使い
そうだな……
①人間の王
▶➁魔族の王
#魔法使い
魔族の王……かな。
#勇者
へぇ、どうして?
#魔法使い
私が人間の王になると怖がられそうだから。
#勇者
ははは!確かに、言えてるかも。
#魔法使い
あとはほら、お前がよく言ってるあだ名。
「魔王」ってやつ。
「魔法を使う王」って意味で言っていたみたいだが、「魔族の王」で魔王ってのも、ぴったりだろう?
#勇者
ほんとだね!
それに……君の姿とか雰囲気とかも、なんか「魔王」って感じするかも!
#魔法使い
なんだそりゃ。
まぁ、似合うと言われること自体は、悪い気分じゃないけどな。
#勇者
あとさー、君って冷たく見えて、面倒見良いじゃない?
だから、案外皆に気に入られるかもよ?
いつも大勢に囲まれたりしてさ。
#魔法使い
そう……かな。そうなるのは、確かに悪くないかもしれないな。
#勇者
ちなみに、僕は君が何と言おうと、「人間の王」希望だったよ!
#魔法使い
何だそれ。聞く意味あったのか?
#勇者
想像力を働かせることが大事なんだよ、現実主義者さん!
#魔法使い
言うじゃないか、理想主義者め。
二人は夜通し語り合った。
勇者の浮かべる理想と、魔法使いの見据える現実。
それらはまるで星と夜空であった。
焚火の火の粉と共に空へと上り、そこで混ざって、見事な星空を作り出す。
……そのような光景が、きっと読者のあなたにも見えるほど、二人の会話は無限のパターンの絵を描いた。
焚火の薪が尽きても、二人の言葉が尽きることはなかった。
……二人の長い旅の末、世界に平和が訪れた。
二人はほとんど全ての魔族の説得に成功し、人間と魔族、二種族のリーダーとして世界を二つに分けることができた。
「人間の国」と「魔族の国」である。
勇者は「人間の国」を治める「勇王」と呼ばれ、魔法使いは「魔族の国」を治める「魔王」と呼ばれることとなった。
二人は優秀な頭脳を使い、国の制度を次々と整えていった。
とりわけ大きかったのが「世界樹の所在」についてだ。
世界樹は人間と魔族どちらのものでもない。
これからは、人間と魔族、全ての者を合わせた「人類」のものだ。
そのように取り決めた。
他にも国民が暮らしやすくなるよう二人は導いていった。
次第に世界には不安はなくなった。
明日の食事のことも、争いのことも、国の行く先のことも、想像せずともよい。
全て勇王と魔王に任せておけば大丈夫なのだ。
世界に平和な時間が流れた……
……だがある日、事件が起きた。
#魔王
えっと……次の国民の悩みは……
「世界樹が弱っている件について」
なるほど……この前私が調査にいっても、何の手掛かりも得られなかったからなぁ……
だがこの悩みは何度も提出されている。動かないわけにも……
#魔族
魔王様、ご報告です。
#魔王
おぉ、何だ、言ってみろ。
#魔族
どうやら勇王様が、どこにも見当たらないようです。
#魔王
あいつが……?どういうことだ?行き先は?
#魔族
分かりません……私が受けた知らせは、どこにもいないというだけで……
#魔王
わかった。下がっていいぞ。
この件、重要案件だ。
私が直接調査する。
他の者には混乱をさせないよう、伝えるな。いいな
#魔族
はっ!
#
魔王は一つ試したいことがあった。
それは記録魔法だ。
一人部屋にこもったあと、記録魔法を唱える。
実はこの記録魔法……「セーブ」と「ロード」以外にも、使い道がある。
それは……過去の記録を見ること。
「セーブ」する際、魔王のこれまでの記録が「物語の本」のように、記録される。
その本には、魔王と特に関わりの深い者の記録も、一緒に残っていることが多い。
まるで小説の地の文のように説明されていたりする。
魔王は呪文を唱え、杖を動かした。
手元に現れた本に、「旅の記録」がどんどん書かれていく。
そして最後に表紙に魔法陣が……書き込まれる前に、魔力の出力を一定で止める。
すると、本は消えずに空中に浮かんでいた。
魔王は中身を読んだ。
#魔王
あいつの最近の行動は……これか、世界樹に行ったのか……!
いやそれだけではなく、これは……おかしい。
記録を読むと、勇王が世界樹へと向かったことまでは書いていたのだが、
世界樹に着いたところからの文章が白紙なのだ。
これは……勇王に何かあった……いや、何もおきていないということだ。
それがおかしい。
ケガをするなり、身の危険を感じるなり、命を落とすなり……
何かしらの事象はこの本に記されるはず。
それが無いということは……
勇王の存在が、なくなっている……?
魔王の中に、嫌な予感が過る。
すぐに城と街を出て、世界樹へ向かう。
道中、魔王は考える。
世界樹は、ここ数年で明らかに弱りを見せている。
落ち葉の数も多く、枝も細くなっている。
世界樹信者たちが、「世界がもうじき終わるのではないか」と噂しているのだ。
勇王も魔王も、独自に調査に言っていたが、それを復活させる手掛かりは掴めていなかった。
#魔王
いや……掴めていなかったと思っていたのは、私だけ、か……?
だが、なぜ隠した……なぜ誰も連れていかなかったんだ……?
悪い方向へ、想像が膨らんでしまう。
#魔王
あいつ……私にだけは相談しろ、バカが……
しばらくして魔王は世界樹に着いた。
そこで魔王が見たものは……
#魔王
っ……これは……?
勇者は、世界樹の”中”にいた。
いや正確には、世界樹の中に取り込まれかけていた。
手足はほとんど幹の中に入り込んでいて、胸から上はまだ無事らしい。
だが顔を見ると目は虚ろだ。
#魔王
どうしたんだ!おい、これはなんだ!?しっかりしろ!
#勇王
あぁ……見つかっちゃったね、さっすが君、早いね……
#魔王
喋れはするんだな……よし……!
一体何があった?説明してみろ。
勇王は少しためらった後に、ゆっくりと話し出した。
#勇王
世界樹とね、対話したんだ。
ほら僕、あらゆるものと心を通わせて「対話」することができるからさ。
それは世界樹も例外じゃなかったんだ。
で、全て教えてもらったんだよ。
#魔王
それは……どんなことだ……?
#勇王
世界樹がね……枯れちゃうんだって。一年以内に。
原因は「エネルギー不足」。
世界樹のエネルギーの正体は「想像力」らしいんだ。
人類が、未来を描き、道の先を思い浮かべて、行動や選択の際に生まれる想像力。
これを世界樹は吸収して、成長の糧としている。
で、代わりに放出するのが「生命力」。
この世界にいる動植物は、全て世界樹からの「生命力」で生きている。
だから、世界樹が枯れちゃうと、世界も不毛の地になってやがて滅んでしまう。
#魔王
世界樹のエネルギーが想像力……それが無いと、世界が滅んでしまう……
新しく、大きな情報がたくさん飛び込んでくるが、魔王は持前の冷静さと頭脳で何とか噛みしめていく。
#勇王
だけどね、世界が助かる方法があったんだ。
それは、僕が世界樹に一生身を捧げ続けること。
ほら、僕って何かと理想主義だったじゃない?
頭の回転も早いしね、はは。
だから……僕の想像力って、人並み外れているんだって。
そんな僕が世界樹と一体化したら、それはもう、成長に十分なエネルギーが得られるらしいんだ。
#魔王
……話は繋がってきた。
お前はどうなる?世界樹と一体化して、その後は?
#勇王
世界樹の中に意識は多少残るみたい。
ただ、体が残るわけではないから、君たちと話すことはできなくなっちゃうかな。
それが少し寂しいけどね。
#魔王
寂しいとかじゃないだろう。この国にはまだお前が必要だ!
#勇王
それがね、そうでもないかもしれないんだよ……
……僕らが王になってから、この世界の住民は想像力を失ったんだ。
明日のご飯も、争いのことも、国の行く末も、僕らに任せていればいい。
一人一人が、未来を想像して、道を創っていくことを忘れてしまった。
この世界の想像力を奪っていたのは、実は……僕らだったんだ。
#魔王
そんな……私達はより平和な世界にしたかっただけなのに……
#勇王
気持ちは分かるよ……もちろん、僕もそう思った。
僕にとっての、前からの夢だったんだから。もちろん、君にとってもね。
#魔王
……私が代わることは、できないのか?
#勇王
無理だよ。君ってば……現実主義すぎるんだもの。
想像力においては、僕の方が適任さ……はは……
#魔王
……他の国民が助けるということも?
#勇王
今の彼らだと、恐らく数百人、数千人単位で生贄が必要となるだろう。
そんな犠牲を払うことは僕にはできない
彼らの想像力の復活を待っている時間も、もちろんない。
#魔王
……私が、お前を連れ戻すといったら?
#勇王
……世界と、僕を、天秤にかける気?
ははは……面白いし、とても嬉しい提案だね。
そうだなぁ……現実主義者の君なら、どんな選択をするんだい?
勇王はどちらの選択に対する覚悟も出来ているという顔で、魔王を暖かく静かな目で見守っている。
魔王は、拳を握りしめて、考えた。
世界を救えば、勇王にはもう二度と会えなくなる。
勇王を救えば、世界は一年以内に滅ぶ。
二つに一つの選択。
どちらかを救えば、どちらかを失う。
考えた結果、魔王は……
①勇王を救う
➁世界を救う
#魔王
本当に……本当に、この選択肢しかないのか……?
こんな理不尽な二択……
どちらを失うかを選ぶなんて……
……いや、まだだ。考えるんだ。
考えろ、考えろ、考えろ!
想像しろ、想像しろ、創造しろ!
第三の選択肢を、まだ見ぬ先の未来を、希望を…!
…………
……………………
………………………………
③全てを救う
#魔王
……そうだ。全てを救う。
……全てを"セーブ"する。
できるかは分からないが、試す方法はある。
私なら、その未来に手を伸ばすことができるかもしれない。
どうやって?
それは……全てを「セーブ」することによって……
#
魔王は記録魔法を唱えた。
呪文を唱え、杖を動かし……
そして、本に文字を描くための魔力を、思いっきり込めた。
本に描かれていくのは、魔王の旅路。それも、「魔法使い」だった頃からの、全ての思い出。
自分が歩んだ道も、数々の直面した選択も、それぞれの先であり得た未来も、全て……
最後に本には魔法陣が描かれ、どこへともなく消えた。
そして、魔王はこれまで想像したこともないことを、想像した。
それは、この本がなぜ消えたのか。
もしかしたら、他の世界に飛んでいったのではないか?
もしかしたら、そこには大きな世界があって……
私達と同じような人類が沢山いて……
想像力を働かせながら生きていて……
#魔王
どうか、この本が違う世界の誰かに届きますように……
そして、力を貸してくれ……
想像力という、力を……!
#風街ピリカ
……ということで、皆。
僕がここまで読んできた『魔王と世界樹』。
この本の正体、今の君たちならわかるかな?
二人の旅路を記した物語。
数多くの選択肢。
そして……表紙の魔法陣。
そう、この本は、魔王が生み出した記録魔法により生まれた本だ。
魔王は「セーブデータ」を物語の本として別世界の誰かに送り出し、そしてそれを本として読んでもらうことで、想像力の供給をもらおうと考えたわけだ。
これまでに考えたこともなかっただろう。試そうとしたこともなかっただろう。
だが、現にここにある。
魔王は強い想像の力を発した……
そしてこの空想図書館は、想像を具現化する場所だ。
それらの力が呼応したのか、その本は、僕の空想図書館に突如現れた、というわけだ。
これが、僕が君たちに一緒に読んでもらいたかった理由だ。
僕は、この世界を救いたい。
共に、彼女ら二人の物語を想像して、その力をこの物語世界に与えたかった。
だから、ここまで選択肢をしっかりと選んで、想像してくれた皆、ありがとう。
おかげで……力は満たされた。
見て、本がさっきから光り出して、新たなページを生み出しているんだ。
まだ見ぬ、二人の未来のお話。
きっと、皆の想像力のおかげで物語が進み、次の道を創造したんだろう。
……そしたら、続きを読もうか。
──突然、眩い光に辺りが包まれる。
それと同時に、世界樹はみるみるうちに生気を取り戻していく。
葉の緑色は鮮やかに、幹や枝もどんどん太くなり、その数を増やしていく。
その変化と共に、世界樹は勇王を優しく離した。
勇王は不思議そうな顔をして、辺りを見回した。
#勇王
……僕は……?一体……何が……?
#魔王
よかった……上手く、届いて、想像してくれたんだな……
……なに、お前を見習って、”理想”に手を伸ばしてみたんだよ。
#勇王
……はは、それは気になるね。
理想家の僕でも想像がつかなかった方法、ぜひとも教えてもらえるかい?
魔王は話した。
記録魔法を使って、これまでの「旅の記録」を別世界に送ったこと。
そしてそれを物語として読んで、想像力を満たし、世界を救ってくれた顔も知らない「勇者」のことを。
#勇王
……なるほどねー。
まさか君が愛用していた記録魔法がここで世界を救うきっかけになるなんて……
この世界が本当に物語だとしたら、まったく、とんだ伏線回収だよ。
#魔王
ふっ……そうだな、まさに”理想的な現実”ってやつだよ。
#
それから二人は、「今後」について語り合った。
勇王は理想と少しの現実を語り、魔王は現実と少しの理想を語った。
どうやら旅をしていた頃より、二人とも大人になったようだ。
そして……勇王と魔王だけが国を導いていくのではなく、国民全員で力を合わせて国を作っていく制度を考え直した。
あの焚火の前で語った日のごとく、二人の会話は無限の星空のごとく広がり続けた。
その結果……人類は少しずつ、想像力を取り戻したようだ。
明日の食事を、いつかの不安を、国の行く先を、自ら想像する。
不器用でも、間違っても、一歩を踏み出すことで、彼らはこれからも未来を創造していくだろう。
#勇王
あ、そうだ!
今日も、「あれ」やろうよ。大事なことでしょ?
#魔王
……あぁ、そうだな。
私も、ちょうどやっておきたいと思った所だ。
二人は向かい合って、空を見上げる。
#勇王
この世界を救ってくれた、真の勇者たる「あなた」に。
#魔王
想像力豊かに道を切り開いていく、顔も知らない「あなた」に。
「「ありがとう」」
#風街ピリカ
『魔王と世界樹』
この物語世界の未来を、少しだけ想像してみよう。
きっと皆、世界樹の下に、人は無限の枝分かれの生を謳歌していくことだろう。
出会いの喜びも、旅の楽しさも、別れの悲しみも、その先の命も、感謝も。
それはまた、別のお話。
さて、次枠は「吟遊詩人」歌踊マガル……じゃなかった。
それは、別の世界線の話。
ここはVFantasy歌枠リレー本来の予定調和から外れた道だ。
ならば僕も、僕なりにこの先の未知を想像しよう。
そうだね……次のバトンは、ここに来てくれた皆に渡そうかな。
ね、よければVFantasy歌枠リレーの一員となってくれないだろうか?受け取ってくれるだろうか?
大丈夫、難しいことではないよ。
ただいつも通り、日常を、明日を、未来を想像して、それら全てを謳って、歌って、”謳歌”してくれれば良い。
ふむ…VFantasy歌枠リレーと言えば、職業が必要だね。
職業名はどうしようか…?
君たちは、一つの世界を救った"勇者"だ。
だが生憎、勇者の枠は既に埋まっている。
……そうだな……君たちは「想像」の力で、自身の未来を"創造"していく者だ。
じゃあ、こんなのはどうだろう。
VF歌枠リレー次枠
24人目
"創造者"
あなた達全員の旅路に幸あれ。